在宅医療/訪問診療・看護と介護


 私たちは在宅医療が患者さん、家族、地域を豊かな気持ちにすると信じています。 

はじめに
 在宅医療という言葉は、聞き慣れぬ言葉でしょうが、病院医療(入院医療)とは異なるという意味を含みます。病院医療(入院医療)が、患者さんを入院させて生活の場から引き離して、いわば隔離して治療を行うのに反して、生活する場、つまり自宅で治療しようという医療です。その優れた点は誰にもすぐ解ると思いますが、患者さん自身の生活パターンを守りながら医療を行うことができるということです。大部分の人は同じ治療をするなら入院したくないと考えていると思います。入院は患者さんを日常生活から切り離します。
 在宅医療は、患者さんを日常生活の中で治療し、看護し、介護しようというものです。患者さんは、入院医療と異なり様々なわがまま?が通ります。消灯時間は決まっておりません。自分の好きな時間に食事を取ることができます。自分の食べたいものが食べられます(?) いつでもタバコが喫えます(??) 自分の生活を守りながら治療ができるということです。
 逆に、社会的入院といわれるような生活の仕方、つまり病室を自宅の代わりにする方が、より便利という方や、家族にとっては不利な方法です。多くの方が狭苦しい住宅で生活している現状を考えると、このことはとても重要なことです。
 ですから、私たちは政府の尻馬に乗って在宅医療をむやみに礼賛する気はありません

1)在宅医療とは、どのようなことをするのですか?
 医療をする側は、入院医療と異なることをするわけではありません。看護師詰め所が診療所で、患者さんの自宅が病室というだけのことです。難しい検査をするときなどは、一時的に入院していただくということになります。四六時中、看護師が近くにいるわけではありませんから、家族の負担は増えます。昼間家族の全員が、患者さんを置いて仕事に行くというような家庭では難しい医療です。
 
2)入院しないで、どこまで治療ができますか?
 手術や難しい検査以外は、ほとんど何でも家でできます。私たちの診療所では、在宅で次の治療をしています。
●24時間持続点滴の管理(口から食事や水が摂れなくなり、さらに胃腸の動きも悪くなり、食べたものを吐いてしまう患者さんのため)
●在宅での酸素吸入(心臓や肺が悪くなり、空気のみでは苦しくなる患者さんのため)
●胃管の管理(口から食事、水を取ることが旨くできなくなり、食べた食事、飲み込んだ水が気管から肺に入り、肺炎をおこす患者さんのために、鼻から胃へチューブを入れて流動食を注入する)
●胃瘻(いろう)の管理(胃に穴を開けて直接流動食を胃に入れる。鼻腔チューブによる栄養管理が長期になると、患者さんの苦痛も大きいため)
●褥創(床ずれ)の治療
●血圧、脈、呼吸数、体温のチェック
●食事摂取、水分摂取のチェック
●関節の拘縮(関節が硬まり伸びなくなる)の予防、拘縮が生じた関節の改善
●点滴、導尿
●服薬管理
●排便の管理
(これはとても重要なことです。便秘が続くと大出血を来すこともあります。)

3)家族の役割は?
 どのような医療、看護、介護を望むのか、ということを患者さんと家族で決めて、医師、看護師、ヘルパーと納得するまで話し合い、最もよい方法を選ぶことです。受け身にならないで、積極的な方法を自分達で選ぶことが最も重要だろうと思います。全てが病院側のペースで事が進められる入院医療と異なり、患者さんや家族の意思がより一層必要となります
 患者さんが快適に過ごせるようにするために、具体的にすることは山のようにあります。その代わり、お父さん、お母さん、夫、妻にはできるだけのことをしてあげた、してあげているという深い満足感が得られます。

4)現在どのような患者さんを在宅で診ていますか?
 次のような患者さんが在宅治療を受けておられます。
●脳幹部腫瘍(脳の中心部にできた癌)のため意識がなく、寝たきりの方
●糖尿病による腎障害に加え、認知症を合併し寝たきりになっている方
●延髄に梗塞が生じたため、嚥下障害(食べ物を旨く飲み込めない)と片麻痺があり、寝たきりとなっている方
●パーキンソン氏病が進み、嚥下障害、呼吸障害を来たし、酸素吸入、胃瘻を設置しておられる方
●24時間、持続点滴をしている方

 このような重症の方々ばかりでなく、血圧、脈、血中酸素濃度の管理をしているだけの元気な患者さんもおられます。

5)政府は、在宅医療を押し進めていますが、彼らは入院医療費が高くつき健康保険が赤字になるので、病院から患者さんを早く退院させ、家で治療させたら安くつくということしか考えていません。在宅医療を豊かなものにしようという考えはかけらもありません。
 政府がしなければならないことは、在宅医療に僅かな医療費を上乗せするというような姑息な方法を採るのではなくて、患者さんにとって在宅医療が本当に安心できて、地域や家族に守られているということを実感できるような医療にすることです。
 まずは住宅事情を改善することであり、崩壊しつつある地域、家庭を精神的に豊かなものに変えることでなければなりません。
 私たちは在宅医療が患者さん、家族、地域を豊かな気持ちにするということを信じています。私たちはその方向に一歩でも進めたいと考えて、毎日の医療、看護、介護を行っています。
2006年3月28日